糖尿病患者は日本に800万人もいます。予備軍を含めると2000万人にもなります。
SGLT2阻害薬やGLP-1作動薬はやせ薬として話題に上がりやすいですが、糖尿病治療の立ち位置はどうでしょう。
治療の順序としてまずはメトホルミン、合併症によってSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬を追加して、、、インスリン?
HbA1cはどこまで下げればいいのか?
年齢や合併症、治療の目的で目標は違います。
初期治療や、インスリンを適切に導入できるようになりましょう!
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- ◯急激に血糖値を下げると網膜症が進行するため、緊急性の高い場合を除き、1ヶ月で1%(ハイリスクだと0.5%)以上の速度でHbA1cを下げない。
- ◯糖尿病とCKDを合併している患者が、糖尿病治療薬を使用した場合の臨床試験にて、持続的血糖モニタリングを用いた測定で低血糖がかなりの頻度で起こっており、血糖コントロールが良いほど頻度は高かった。低血糖はせん妄のリスクにもなりうるため、無理なく達成できる場合を除き、6%前半を目指すような厳格なコントロールとなりすぎないように注意する。
- ◯肥満型(BMI28≦)ではインスリン抵抗性の悪化が主体である場合が多い。インスリン抵抗性を改善させ、脂肪燃焼を促進させるメトホルミンは使用が推奨される。SGLT2阻害薬もまた、体重減少やインスリン抵抗性改善を期待できるため推奨される。心血管疾患の既往や心不全、微量アルブミン尿や蛋白尿があれば優先して使う。
- ✕最小血管障害の抑制効果は薬物に起因するのではなく、血糖コントロールレベルに左右される。大血管障害は血糖コントロールだけでは抑制効果がエビデンス不十分で、薬剤毎にエビデンスが存在する。例えばメトホルミンでは肥満患者に対する大血管症発症抑制効果、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)とリラグルチド(GLP-1作動薬)は、心血管イベントの発症リスクを有意に抑制するとされている。
- ◯ 血糖コントロールが悪いまま漫然と同じ治療を続けてはならない。コントロールできないならインスリンを導入して厳格な血糖コントロールを行うべき。また、インスリン導入が遅れることで患者のインスリン導入への閾値が上がってしまうこともある。糖尿病治療中のインスリン導入の基準として、高血糖(空腹時血糖値 250mg/dL 以上,随時血糖値 350 mg/dL 以上)、痩せ型で栄養状態が不良、ステロイド治療による高血糖、インスリン以外の薬物療法では良好なコントロールができないなどがある。
治療の基本
- 3ヶ月は食事、運動療法を行う。
- それでも良好な血糖コントロールが得られない場合、血糖降下薬による治療を開始する。
- 指導の開始時に今までのMAX体重とここ1ヶ月の体重の増減を確認しておくとよい。
- 急激な血糖コントロールによる悪影響を抑えるために、単剤を少量から開始する。
- 治療の効果を見るために長くとも6ヶ月毎には使用している薬剤が適当か、目標を達成できてるか見直しを行う。
治療開始後は以下の4つを継続的に確認していく。
①血糖②血圧③脂質④禁煙
- 投薬開始時のHbA1cが高いほどHbA1cの改善効果が大きい。
最初は順調に低下してきてもだんだんと減りが遅くなる。
- 投薬開始時の体重はHbA1cの改善効果に影響しない。
治療の注意点
- 薬は可能な限り漸減・中止していく。
- SU剤に限らずDM薬を服用中のCKDでは、持続的血糖モニタリングを用いた測定で低血糖がかなりの頻度で起こっており、血糖コントロールが良いほど頻度は高い。
HbA1cが6%前半では低血糖を生じている可能性が高い。
- DM治療でHbA1cを下げるペースは1ヶ月で1%(ハイリスクだと0.5%)に抑える。
網膜症が急激に進行するため。
- 低血糖はせん妄のリスクとなる。
推奨薬
- アメリカ糖尿病学会(ADA)とヨーロッパ糖尿病学会(EASD)ガイドラインでは2型糖尿病の診断後早期にメトホルミンを第一選択薬として開始を推奨する。
有効性、安全性、費用対効果の面から。
- 日本では第一選択薬を指定せず,病態に応じた薬剤選択を推奨する。
海外とは病態やライフスタイルが異なる。
薬の選び方
①ステップごと(Ⅰ〜Ⅳ)
ステップⅠ
eGFR 30≦ではメトホルミンを単剤で開始する。
- eGFR<30では禁忌である。
- HbA1c<7を目指す。
ステップⅡ
DPP-4阻害薬orSGLT2阻害薬を追加。
- HbA1c<7を目指す。
- SGLT2阻害薬は心不全、微量Alb尿・蛋白尿、肥満の場合は積極的に使用する。
脱水により血栓傾向となるため、脳梗塞など梗塞系の既往があると使用しにくい。
ステップⅢ
まだ使用していないDPP-4阻害薬orSGLT2阻害薬、もしくはαグルコシダーゼ阻害薬orSU薬(グリニド薬)orリベルサス(経口GLP-1作動薬)を追加。
- SU薬は低血糖を起こしやすいため少量から開始する。
- リベルサスは効果は高いものの、初期に嘔気が辛かったり、起床時に少量の水で飲まなければならないなど障壁がある。
ステップⅣ
インスリンや注射のGLP-1作動薬を使用。
- 経口薬を3剤使ってもコントロール不十分な場合はインスリンを使用するか専門医へ紹介する。
- eGFR <30は腎臓内科へ紹介する。
②疾患ごと
動脈硬化性心疾患
→SGLT2阻害薬orGLP-1作動薬
心不全
→SGLT2阻害薬
CKD
→SGLT2阻害薬+ACE阻害薬/ARB(最大量)(+GLP1作動薬)
③体型ごと
肥満型(BMI28以上)
インスリン抵抗性の悪化が主体。
第一選択
メトホルミン
- 肝臓内や骨格筋の脂肪燃焼を促進させる。
第二選択
SGLT2阻害薬
- 体重減少、インスリン抵抗性改善を期待できる。
- 心不全、微量Alb尿・蛋白尿、肥満の場合は積極的に使用する。
痩せ型の患者(BMI25以下)
インスリン分泌不全が主体
第一選択
DPP4阻害薬
- 東アジア人での血糖降下作用良好のため。
第二選択
メトホルミン
- 肥満型と同等の効果が得られる。
第三選択
α-GI
- インスリン分泌不全による食後高血糖を抑制できる。
効果がなければ
基礎インスリン
- GLP-1作動薬に食欲減退作用があるため特に痩せ型の高齢者の場合サルコペニアのリスクがあるため、インスリンを選択する。
HbA1cの目標
合併症予防に対するHbA1cの目標 | 血糖正常化 | 合併症予防 | (低血糖などにより) 治療強化が困難な場合 |
HbA1c | <6.0% | <7.0% | <8.0% |
- HbA1c 6.0%は空腹時血糖値の110mg/dLに対応する値。
- 合併症予防からはHbA1c <7.0%を目標とする。
7.0%に対応する空腹時血糖値<130、食後2h <180である。
患者の状態に対するHbA1cの目標 | 状態良好 | ①軽度認知症 ②自律しているが手段的ADL低下 | ①中等度以上の認知症 ②基本的ADL低下 ③多くの合併症や機能障害あり |
HbA1c | <7.0% | <7.0% | <8.0% |
インスリン、SU薬、グリニドを使用している場合 | 65-74歳: <7.5%(下限6.5%) 75歳~: <8.0%(下限7.0%) | <8.0%(下限7.0%) | 8.5%(下限7.5%) |
細小血管障害と大血管障害について
細小血管障害
- 神経障害、網膜障害、腎障害
- 抑制効果は血糖コントロールレベルに関連し、薬物間の差はない。
- 神経障害、網膜障害、腎障害がある場合のLDL-Cの管理目標は100未満である。
大血管障害
- 脳卒中、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症
- 良好な血糖コントロールを達成しても大血管症が抑制されるというエビデンスはまだ不十分。
- 薬物間の差が指摘されている。
- SU薬は糖尿病発症早期からの投与で大血管症を抑制する可能性が高い。
この場合は血糖コントロール改善に伴って効果が現れる。
・肥満患者に対するメトホルミンの大血管症発症抑制効果の報告もある。
SU薬との併用ではその効果は認められていない。
- エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)とリラグルチド(GLP-1作動薬)は、心血管イベントの発症リスクを有意に抑制する。
- 強化療法群での総死亡率が22%増加した。
→重症低血糖を起こさないよう注意しながら厳格に血糖コントロールを行うことが大血管症抑制につながる。
糖尿病の強化療法とは
- インスリンを使用して、血糖変動パターンを健康な人に近づけるための方法。
- 血糖自己測定を繰り返してインスリンの注射量を調節し、インスリン注入ポンプを用いて行う。
- おもに1型糖尿病の治療法の1つだが、2型糖尿病でも行える。
- 性急に増薬が行われた強化療法群では重症低血糖の発症率が16.2%と上昇した。
- 低血糖と死亡との関与が疑われた。
- 低血糖が起きやすいという問題をクリアする必要がある。
血糖コントロールの目標値に到達しない場合
- 第一選択薬の増量、より血糖改善効果の強い血糖降下薬への変更、作用機序の異なる血糖降下薬の併用を考慮する。
- どの方法が最善かについてのエビデンスはない。
- 治療薬の併用は、ほとんどの組み合わせで血糖コントロールの改善効果が認められる。
- メトホルミンとSU薬の併用療法に加えて、3剤目はどれを追加した場合にも改善が得られた。
3剤目:α-グルコシダーゼ阻害薬、ピオグリタゾン、DPP-4阻害薬、GLP-1作動薬、SGLT2阻害薬
インスリン分泌能の低い日本人では、以前はSU薬が用いられることが多かった。
- 3剤あるいは4剤併用療法の割合は増加してきており、薬剤を増やすことで血糖コントロールが改善する。
- 薬剤数あるいは内服回数の増加によりアドヒアランスが低下する。
- 併用では低血糖の発症の頻度が増加する場合が多く、注意が必要。
- 併用によってもコントロールが不十分な場合、基礎インスリンの追加投与や強化インスリン治療への変更を考慮する。
- 血糖コントロールが悪いまま漫然と同じ治療を続けてはならない。
インスリン使用の基準
- インスリンの絶対的適応がある。
- 高血糖(空腹時血糖値 250mg/dL 以上,随時血糖値 350 mg/dL 以上)。
- 痩せ型で栄養状態が不良。
- ステロイド治療による高血糖を認める。
- インスリン以外の薬物療法では良好なコントロールができない。
- 糖毒性の是正が必要。
- インスリン依存状態(病型を問わず)。
- 高血糖性の昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、乳酸アシドーシス)。
- 重度の肝障害、腎障害を合併し、食事療法でコントロールが不十分なとき。
- 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)のとき。
- 糖尿病合併妊婦(妊娠糖尿病で食事療法のみで良好な血糖コントロールが得られない場合も含む)。
- 静脈栄養時の血糖コントロール。
インスリン治療について
- 治療により良好なコントロールができないのであれば、早期にインスリンを導入して厳格な血糖コントロールを行うべき。
- インスリン導入に伴う様々な問題から,実際にインスリン治療の導入を勧めるタイミングは遅れることが問題である。
- 適切な時期にインスリン治療を導入するためには、簡便な投与方法がよい。
- 血糖降下薬に基礎インスリンを補充する療法があり、ADA/EASDのガイドラインにも記載されている。
- 1種類のインスリンで注射回数が1回であっても改善を得られる。
- 血糖降下薬でコントロール不十分な2型糖尿病患者に持効型インスリンを追加することで、改善が得られる。
- 超速効型インスリンの追加や1日2回以上の混合型インスリンの注射法への変更も検討する。
GLP-1作動薬
- 追加インスリンの代わりに、GLP-1作動薬を基礎インスリンに追加する方法もある。
- 基礎インスリンに超速効型インスリンを追加した場合に比較してGLP-1作動薬を追加した場合のコントロールは同等以上。
効果:基礎インスリン+超速攻型インスリン≦GLP-1作動薬
- 低血糖の発症リスクも少なく、体重も減少する。
- 注射回数は少なく、QOLを損なわない。
- インスリン分泌が保たれている例でよい適応である。
Cペプチドで分泌能をみる
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- ◯急激に血糖値を下げると網膜症が進行するため、緊急性の高い場合を除き、1ヶ月で1%(ハイリスクだと0.5%)以上の速度でHbA1cを下げない。
- ◯糖尿病とCKDを合併している患者が、糖尿病治療薬を使用した場合の臨床試験にて、持続的血糖モニタリングを用いた測定で低血糖がかなりの頻度で起こっており、血糖コントロールが良いほど頻度は高かった。低血糖はせん妄のリスクにもなりうるため、無理なく達成できる場合を除き、6%前半を目指すような厳格なコントロールとなりすぎないように注意する。
- ◯肥満型(BMI28≦)ではインスリン抵抗性の悪化が主体である場合が多い。インスリン抵抗性を改善させ、脂肪燃焼を促進させるメトホルミンは使用が推奨される。SGLT2阻害薬もまた、体重減少やインスリン抵抗性改善を期待できるため推奨される。心血管疾患の既往や心不全、微量アルブミン尿や蛋白尿があれば優先して使う。
- ✕最小血管障害の抑制効果は薬物に起因するのではなく、血糖コントロールレベルに左右される。大血管障害は血糖コントロールだけでは抑制効果がエビデンス不十分で、薬剤毎にエビデンスが存在する。例えばメトホルミンでは肥満患者に対する大血管症発症抑制効果、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)とリラグルチド(GLP-1作動薬)は、心血管イベントの発症リスクを有意に抑制するとされている。
- ◯ 血糖コントロールが悪いまま漫然と同じ治療を続けてはならない。コントロールできないならインスリンを導入して厳格な血糖コントロールを行うべき。また、インスリン導入が遅れることで患者のインスリン導入への閾値が上がってしまうこともある。糖尿病治療中のインスリン導入の基準として、高血糖(空腹時血糖値 250mg/dL 以上,随時血糖値 350 mg/dL 以上)、痩せ型で栄養状態が不良、ステロイド治療による高血糖、インスリン以外の薬物療法では良好なコントロールができないなどがある。