多くのトリプタンやレイボーという薬剤が増えて、偏頭痛の発作治療の選択肢は多くなってきました。
しかし、痛くなることを減らしたくありませんか?
さらにトリプタンを月に10回以上使うと、薬剤性の頭痛を引き起こす可能性があります。これが薬物乱用頭痛。
薬物乱用頭痛を引き起こさないために重要なのが予防薬の適切な使用と使い分け❗️
昔からある経口の予防薬はCa拮抗薬、抗てんかん薬、β遮断薬、抗うつ薬と様々です。
最近では抗CGRP抗体という注射薬が2021年から発売開始になりました。
あなたならどの予防薬を選びますか?
a.d
- ○ 月に10回以上使用すると薬剤性の頭痛を引き起こす可能性があるため、特に初回投薬の際は使い過ぎのリスクについて説明が必須である。目安として、トリプタンの使用は週に2回までとするとわかりやすい。
- ✕予防薬は一般的に効果が現れるのに1ヶ月ほどかかるため、効果判定には少なくとも2ヶ月みる。有害事象がなければ3ヵ月、忍容性が良好であれば6ヶ月は継続する。
- ✕バルプロ酸(デパケンR)は服用によって葉酸が低下しやすく、妊婦への投与で催奇形性(二分脊椎など)の増加が認められている。よって妊娠を希望している女性に優先的な選択はしにくい。妊娠可能年齢の女性へ投与する際は確実に避妊するよう説明が必要で、使えないことはないが注意が必要。
- ○プロプラノロール(インデラル)はその他の片頭痛予防薬に比べて確実な催奇形性が認められておらず、治療薬として経験的に使用しやすい。しかし、妊婦に使用する薬全般にいえることだが、薬剤の使用がない場合でも生じうる催奇形性のリスクと、薬剤の影響について適切に説明する必要がある。
- ✕発作予防の全ての注射薬で自己注射が認められている。初回投与のみ医療施設において、医師の監視の元で投与を行う必要がある。
e
- ✕副作用はほとんどないとされているが、添付文書上、眠気が生じる場合があるため運転させられない(Ca拮抗薬:脳の血管拡張に起因する)。
- ✕眠気、注意力の低下が生じる場合があるため運転させられない(抗てんかん薬)。
- ✕ふらつきが生じる場合があるため(特に投与初期)運転させられない(β遮断薬:降圧作用による)。
- ✕ 眠気が生じる場合があるため運転させられない(3環系抗うつ薬)。
- ○眠気などの副作用はなく、運転の制限はない(抗CGRP抗体)。
目標
・片頭痛発作の頻度、重症度、持続時間、および頭痛による障害を減らす。
・頭痛薬の服用を月10回までにする。
片頭痛予防薬
- ロメリジン(ミグシス)←まずは
- バルプロ酸(デパケンR)←効果を期待したい
- プロプラノロール(インデラル)←妊婦
- アミトリプチリン(トリプタノール)←うつ病併発
- ベラパミル(ワソラン)←群発頭痛
- 注射薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ)←経口薬が効かない
・対象は「片頭痛発作が月に2回以上、生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者」
・一般的に即効性はなく、効果が現れるのに1ヶ月ほどかかる。
・片頭痛予防療法の効果判定には少なくとも2ヶ月みる。
・片頭痛のコントロールが良好になれば予防薬を緩徐に減量し、可能であれば中止する。
ロメリジン(ミグシス)5mg
- Ca拮抗薬→片頭痛発作の第1段階である脳血管収縮を抑制する。
- 保険適用がある。
- 前兆のある片頭痛には、特に有効であり予防薬の第一選択薬になる。
- 用法:5mg 1日2錠 1回1錠 朝食後・夕食後もしくは朝食後・就寝前。
- 最大用量は20mg(4錠)/日まで。
- 脳の血管に選択的に作用するため、血圧低下を含め、副作用はほとんどない。
- 3ヶ月以上の服用で発作の有意な減少を認めた。
- 頭痛の平均持続時間、頭痛薬の使用回数の有意な減少も認めた。
- 10mg/日(8w)で64%、20mg/日で67%の有効率がある(対照は33%)。
- 次の選択肢として、保険による適応外使用が認められているベラパミルが勧められる。
副作用が少ないため選択しやすい。
バルプロ酸(デパケンR)100、200mg
- 抗てんかん薬。
- 片頭痛予防の第一選択。
- 平均発作回数が半分程度になる。
- プロプラノロールと同等の有効性が示されている。
- 400-600mg/日が推奨量。
- 1000mg/日を超えないこと。
- 副作用軽減のために少量で用いる。
- 副作用:傾眠、ふらつき、臨床上問題になりやすいのは食欲増進。
- 少量であってもミグシスなどに上乗せすることで発作頻度の軽減効果がある。
- 定期的に血中濃度の測定が必要。
- 服用によって葉酸が低下しやすい。
→400μg/日の葉酸を摂取することで葉酸低下による副作用のリスクを下げることができる。
処方例
1wに2回、数時間~数日続く片頭痛。頭痛発作時にスマトリプタン、効かなかった時にロキソプロフェン。予防薬としてミグシスを使用している。
→バルプロ酸を100mg/日で追加する。
眠気などの副作用に注意すれば効果的に使える。妊婦に禁忌のため、妊娠可能年齢女性への処方には注意。
プロプラノロール(インデラル)10mg
- β遮断薬。
- 20-30mgで始め、60mgまで漸増できる。1日2-3回。
- 妊婦に使用する場合に選択しやすい。
- リザトリプタン(マクサルト)と併用禁忌なので注意。
- 忍容性が高く、重篤な副作用も少なく、積極的に使用が推奨される。
- 高血圧や冠動脈疾患、頻拍性不整脈共存例には第一選択薬として勧められる。
- 喘息などβ遮断薬禁忌の共存症がない限り積極的に使用できる。
効果は高く、妊婦にも使用できる。喘息には禁忌のため注意。
アミトリプチリン(トリプタノール)10、30mg
- 3環系抗うつ薬。
- 眠気を押さえるために低用量(5-10mg 就寝前)から開始する。
- 推奨量は10-60mg/日。
- 片頭痛患者は抑うつ状態を併発していることも多々あるが、抑うつ状態の有無に関わらず有効である。
- 月あたりの片頭痛発作減少が-2.7回であった。
- 緊張型頭痛を合併している場合、プロプラノロールよりアミトリプチリンの方が有効率が高い。
- 副作用:抗コリン作用による口渇、便秘、排尿障害、眼圧上昇、心拍数増加および抗ヒスタミン作用による眠気、ふらつき。
うつ病併発患者に使いやすい。抗コリン作用や眠気の副作用に注意。
ベラパミル(ワソラン)40mg
- Ca拮抗薬
- 適応外使用が承認されている。
- 用量:80mg/日から開始し必要に応じて240mg/日まで増量できる。
- ベラパミル240mg/日を8週間投与では片頭痛作頻度はプラセボ3.4回/月に対し、ベラパミル2.8回/月と有意に減少し、急性期治療薬の使用も有意に減少した。
- 320mg/日を片頭痛者に3ヵ月投与すると、片頭痛発作頻度が6.7回/月から 3.8回/月に減少した。
- 副作用:徐脈、心部制、便秘、イレウス。
- 群発頭痛に使用される側面が強い。
注射薬
抗CGRP抗体と抗CGRP受容体抗体について
- 抗CGRP抗体:ガルカネズマブ(エムガルティ)、フレマネズマブ(アジョビ)、および抗CGRP受容体抗体:エレヌマブ(アイモビーグ)。
- 処方に際しては総合内科専門医や日本神経内科学会など専門医の資格が必要である。
- 経口の予防薬を使っても月に4回以上頭痛がある方に使う。
- きちんと診断して投与されれば全く効かないと答える患者数は10%程度になる。
- もやもやした頭痛の前兆や頭の違和感も無くなる。
- 長期的にみれば3剤の効果に大きな違いはない。
- 初回から効果が高いのはエムガルティ。
- どれも約1万5000円/月(3割負担)と高額となるため説明が必要(エムガルティ初回は2本使うため約3万円)。
ガルカネズマブ(エムガルティ) 抗CGRP抗体
- 初回2本その後月1回注射を行う。
→初回の投与から立ち上がりが早く、次回投与日までに効果が切れることが少なく安定している。 - 慢性片頭痛や他の予防薬の効果が不十分な例で、片頭痛の日数が半減している。
- 実際には平均で月の片頭痛の日数が8.6日から3.6日分減った。
- 多くの例で使用開始翌月には効果が出ているという。
- 半分の人が頭痛が50%に減った(弱い頭痛を含めるともっと多い)。
- 頭痛がまったく無くなるは10-20%。
初回から効果を期待したい場合に使いやすい。
フレマネズマブ(アジョビ) 抗CGRP抗体
- 4週間おきに1回1本あるいは12週間おきに1回3本の皮下注射を行う。
- 片頭痛予防薬内服の有無にかかわらず、片頭痛の日数が減少する。
- 反復性片頭痛、慢性片頭痛ともに、片頭痛日数が初回投与1週目から減少する。
- 半分の人が頭痛が50%に減った(弱い頭痛を含めるともっと多い)。
- 構造が小さいため効果が無くなりにくいにくいとされているが、エムガルティでも効果が弱くなっていくわけではない。
- 1ヶ月当たりの片頭痛日数は、アジョビ1回/4週投与群で-4.1日、3回/12週投与群で-4.1日、プラセボで-2.4日であった。
12週間おきに投与する方法があるため、頻繁に受診できない患者に使える(エムガルティを1度に3本(3ヶ月分)を処方することも可能ではある)。
エレヌマブ(アイモビーグ) 抗CGRP受容体抗体
- 4週間に1回皮下注射を行う。
- 片頭痛患者における64週後の片頭痛日数50%減少率は64.8%。
- 片頭痛の発作回数の減少、発作時の内服薬の減少、片頭痛による痛み、日常生活への影響が軽減される。
薬物乱用頭痛
- 頭痛薬を飲む回数が増えることで、むしろ頭痛が悪化してしまう状態。
- 1日に4時間以上の頭痛が1ヶ月に15日間以上、3ヶ月を超えて続く頭痛。
- 頭痛薬の服用を月10回までにすることが大切。
- トリプタン乱用頭痛:3ヶ月以上、1ヶ月に10日以上トリプタンを使用している。
→薬物乱用頭痛にならないように予防薬を適切に使用していく。
問題
- ○ 月に10回以上使用すると薬剤性の頭痛を引き起こす可能性があるため、特に初回投薬の際は使い過ぎのリスクについて説明が必須である。目安として、トリプタンの使用は週に2回までとするとわかりやすい。
- ✕予防薬は一般的に効果が現れるのに1ヶ月ほどかかるため、効果判定には少なくとも2ヶ月みる。有害事象がなければ3ヵ月、忍容性が良好であれば6ヶ月は継続する。
- ✕バルプロ酸(デパケンR)は服用によって葉酸が低下しやすく、妊婦への投与で催奇形性(二分脊椎など)の増加が認められている。よって妊娠を希望している女性に優先的な選択はしにくい。妊娠可能年齢の女性へ投与する際は確実に避妊するよう説明が必要で、使えないことはないが注意が必要。
- ○プロプラノロール(インデラル)はその他の片頭痛予防薬に比べて確実な催奇形性が認められておらず、治療薬として経験的に使用しやすい。しかし、妊婦に使用する薬全般にいえることだが、薬剤の使用がない場合でも生じうる催奇形性のリスクと、薬剤の影響について適切に説明する必要がある。
- ✕発作予防の全ての注射薬で自己注射が認められている。初回投与のみ医療施設において、医師の監視の元で投与を行う必要がある。
- ✕副作用はほとんどないとされているが、添付文書上、眠気が生じる場合があるため運転させられない(Ca拮抗薬:脳の血管拡張に起因する)。
- ✕眠気、注意力の低下が生じる場合があるため運転させられない(抗てんかん薬)。
- ✕ふらつきが生じる場合があるため(特に投与初期)運転させられない(β遮断薬:降圧作用による)。
- ✕ 眠気が生じる場合があるため運転させられない(3環系抗うつ薬)。
- ○眠気などの副作用はなく、運転の制限はない(抗CGRP抗体)。