慢性便秘症のガイドラインが2023年に改訂されました。
排便があっても便秘による不快感があったら便秘症としての治療適応があります。
基本は第一選択である酸化Mg、数日間の排便が無かった時に頓服で刺激性下剤(センノシドやピコスルファート)を使用。
それでも安定しなければ新規薬剤(と言っても発売からすでに10年ほど経ちますが)(アミティーザ・グーフィス・リンゼス)を考慮します。
小児や妊婦さんには初回からモビコールを考慮してもよい。
では第一選択である酸化Mgが使いにくい場面はどんな時か。
便秘症の基本について学びましょう。
a
- ✕便秘症の型には大腸の運動機能低下による排便回数減少型と、腹筋の低下や骨盤底筋の協調運動の障害による排便困難型がある。排便困難型は薬物治療で改善されにくい。恥骨直腸筋体操や排便時の姿勢の改善を行う。排便回数減少型にも効果はある。詳細は後ほど。
- ◯便秘症のゴールは酸化Mgなどの非刺激性下剤のみで排便回数が2日に1回から1日2回の排便があることである。腹部不快感などの自覚症状がなくなることも重要である。
- ◯酸化Mgを1日服用回数を3回→1回に変更前後2wにおいて排便回数・便硬度ともに有意差を認めなかった。他に併用注意の薬剤を日中に飲んでいる場合や、日中の服用が困難な場合であれば用法を就寝前1回にまとめることがよいだろう。
- ◯酸化Mgは胃酸と反応してMgClを生じ、膵液に含まれるNaHCO3と反応して、浸透圧で便を軟化、膨張させる。同時服用でPPIの効果も落としてしまうため、酸化Mgを服用する2時間前か4時間後にPPIを内服する。他にもテトラサイクリン系やニューキノロン系などの抗菌薬の吸収を阻害するため併用薬には意外と注意が必要。
- ◯ 刺激性下剤【センノシド(プルゼニド(錠剤)・アローゼン(顆粒))やピコスルファート(ラキソベロン)、ビサコジル(テレミンソフト(坐薬)・コーラック(市販))】は耐性を生じることから連日の使用を避け、週1-3回の頓用として使用する。
慢性便秘症とは
・週3回未満の排便が1つの基準。
臨床上はうまく出せることがポイント
- 毎日のように排便はあるが強いいきみを伴うケースは便秘と診断される。
- 3日に1回だが便性状がよく排便時の不快感もないのであれば便秘ではない。
排便回数減少型と排便困難型に大別される
◯排便回数減少型
- 下剤の適応となるのは大腸の蠕動運動の低下が原因で便の大腸通過時間が遅延するタイプのもの。
- 単純に食事量が多くなく、3日に1回普通量の排便がある場合はわざわざ治療しない。
- 食物繊維や食事の摂取量の不足が原因の便秘は下剤を服用するだけでは解消できない。
→食物繊維の摂取量の適正化が必要。
◯排便困難型
- 原因:腹筋の低下や骨盤底筋の協調運動の障害。
- 経口の下剤では改善しにくい。
- 改善方法:恥骨直腸筋体操や排便時の姿勢の改善を行う。
恥骨直腸筋体操
- 肛門を5秒間ギュッと締めて、5秒間緩める。
- 1日10セット行う。
- 1ヶ月も行うと排便を抑えている恥骨直腸筋が緩みやすくなり、排便が促されるようになる。
- 排便回数減少型にも有効。
排便姿勢
- しゃがんだ姿勢が理想的。
- 前傾姿勢になることで肛門括約筋が緩み直腸と肛門が一直線になる。
- 前傾させにくい場合、踏み台で膝を尻より高く上げると良い。
- 排便回数減少型にも有効。
目指すゴール
- 非刺激性下剤のみで排便回数が2日に1回から1日2回。
- ブリストルスケールスコア3(やや硬い便)-5(やや軟らかい便)がすんなり出る状態。
- 腹部不快感などの自覚症状がなくなることも重要。
便秘をきたしやすい疾患
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 慢性腎不全
- パーキンソン病
- うつ病
- 向精神病薬
薬剤
浸透圧性下剤
酸化マグネシウム
基本用法:1500-2000mg/day 1日3回(500mg 3錠3× or 330mg 6錠3×)
排便があれば用法は自由なので、患者本人が自己調節して自分に合った用量で減量して使ってよい。
- 1500-2000mgを食前または食後の3回に分割投与するか、就寝前に1回投与する。
- 1日服用回数を3回→1回に変更前後2wにおいて排便回数・便硬度ともに有意差を認めなかった。
1日投与量を維持したまま服用回数を減らしても緩下作用に影響を与えない。
- 浸透圧性下剤は硬便に効果的。
- 効果が出るまでに数日かかる。
- 大腸通過正常性便秘症の場合 330mgを1日3回。
- 薬剤性便秘には効果が期待できない。
→ピコスルファートなどの刺激性の下剤が適する。
◯副作用
高Mg血症
- 初期症状:悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、筋力低下、傾眠
- 腎機能低下で高Mg血症の可能性。
→3ヶ月に1度血清Mg値を測定する、1日2gを超えて服用しない、eGFR≦30は避ける。 - 透析患者や腎機能低下例では推奨されない。
◯併用注意
・活性型VD3製剤
- Mgの消化管や尿細管での吸収を促進するため併用は慎重にする。
90歳の患者が酸化Mg1000mgでも脱力や血圧低下、徐脈が見られ救急搬送された。
・PPIやH2ブロッカー
- 胃酸抑制するものとの併用でお互いの薬効が低下する。
- 酸化Mgは胃酸と反応してMgClを生じ、膵液に含まれるNaHCO3と反応して、浸透圧で便を軟化、膨張させる。
- 同時服用でPPIの効果も落としてしまうため、酸化Mgを服用する2時間前か4時間後にPPIを内服する。
1日3回酸化Mgを服用している場合は、起床時か就寝前にPPIを服用する。
・テトラサイクリン系やニューキノロン系抗菌薬
- 抗菌薬の吸収を妨げる。
→服用を2時間ずらす。
・レボドパ
- アルカリで分解するため、併用で効果が減弱する。
→服用を2時間ずらす。
刺激性下剤
- 酸化Mgを基本薬にして、排便がない日が続く時に追加して使用していく。
- 連日使用していくと効き目が弱まるため頓服での使用が適する。
センノシド(プルゼニド(錠剤)・アローゼン(顆粒))
- 漢方センナの成分であるセンノシドがアウエルバッハ神経叢を刺激して大腸の動きを促進する。
- 水分吸収阻害作用も持つ。
- 就寝前に服用する。
◯副作用
- 大腸の色が変化する(大腸メラノーシス)。
- 神経叢に作用し大腸平滑筋の萎縮が起こり大腸弛緩が悪化する。
◯使用方法
- 酸化Mgで1-2日排便がなければセンノシドを2錠服用。
- 翌日も排便がなければ3錠、翌々日は4錠服用。
- それでも排便なければ受診してもらうか、他の非刺激性下剤を追加する。
→アミティーザ、グーフィス、リンゼスなど。
ピコスルファート(ラキソベロン(液・錠))
- 大腸を刺激して排便を促進する。
- 水分吸収阻害作用も持つ。
◯使用方法
- 用量:10滴/日(15滴まで増量できる)
- 用法:1日1回(就寝前などと限定されていない)
- 錠剤(2.5mg)は内用液5滴分に相当する。
- 腹痛が気になる場合は、5滴/日から始めて、毎日2滴ずつ増やしていき、何滴投与したところで排便があったか把握する。
→再度便通が悪くなった時に同量を頓服として使用する。 - 連用は避け週1〜3回の頓用として使用する。
◯利点
- 頓用で高齢者に対して使用すると効果的である。
- 他の刺激性下剤よりも耐性が生じにくい。
- 抗不安薬などの薬剤性便秘に著効する。
◯副作用
腹痛が強く、特に刺激性下剤の使用歴がなく初回から10滴で投与した際には高頻度で生じるため注意が必要。
ビサコジル(テレミンソフト(坐薬)・コーラック(市販))
- 結腸、直腸の粘膜に作用し、蠕動運動を促進する。
- 水分吸収阻害作用も持つ。
- 経口摂取困難な場合に坐薬として使用しやすい。
- 市販のコーラックは初回使用時の腹痛や連続で使用し過ぎないように注意する。
症状に対する薬
- 便が緩めになったり硬かったりを繰り返す時は整腸剤を追加する。
- 腹部膨満や残便感がある場合には大建中湯を追加する。
問題
a
- ✕便秘症の型には大腸の運動機能低下による排便回数減少型と、腹筋の低下や骨盤底筋の協調運動の障害による排便困難型がある。排便困難型は薬物治療で改善されにくい。恥骨直腸筋体操や排便時の姿勢の改善を行う。排便回数減少型にも効果はある。詳細は後ほど。
- ◯便秘症のゴールは酸化Mgなどの非刺激性下剤のみで排便回数が2日に1回から1日2回の排便があることである。腹部不快感などの自覚症状がなくなることも重要である。
- ◯酸化Mgを1日服用回数を3回→1回に変更前後2wにおいて排便回数・便硬度ともに有意差を認めなかった。他に併用注意の薬剤を日中に飲んでいる場合や、日中の服用が困難な場合であれば用法を就寝前1回にまとめることがよいだろう。
- ◯酸化Mgは胃酸と反応してMgClを生じ、膵液に含まれるNaHCO3と反応して、浸透圧で便を軟化、膨張させる。同時服用でPPIの効果も落としてしまうため、酸化Mgを服用する2時間前か4時間後にPPIを内服する。他にもテトラサイクリン系やニューキノロン系などの抗菌薬の吸収を阻害するため併用薬には意外と注意が必要。
- ◯ 刺激性下剤【センノシド(プルゼニド(錠剤)・アローゼン(顆粒))やピコスルファート(ラキソベロン)、ビサコジル(テレミンソフト(坐薬)・コーラック(市販))】は耐性を生じることから連日の使用を避け、週1-3回の頓用として使用する。